瞬刻のタブロー | Twinkling tableau2020
Hahnemule Photo Rag Bryta , Inkjet
Size / 60cm × 70cm
Edition / 5
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⻄の空にかすかに残る、陽の名残りも無くなる時間に、江戶時代から続く的形のかつての⽬抜き通りを歩いていると、その幅の狭い道に這う様に建てられた⺠家の壁⾯が⾃分に迫ってくる感覚を携えながら視界を流れていく。やがて夜に包まれ、まだ⾒慣れない町の情報がますますなくなり、その壁⾯は抽象化され、⾊と形だけで形成されていく景⾊として認知されていく。そして、まだ陽が昇る前の夜の途中の時間、静かな海を⽬の前にすると、波の⾳や磯の⾹りで海の存在は感じるが、まだ光が⾏きわたっていないその黑い海は、ゆらゆらとたゆたう定まらない模様の様に⾒えた。やがて雲に隠れた⽉から溢れる静かな優しい光が落ち、闇に慣れ始めた視覚が、さっきまでの黑い模様に濃淡が⾜される事で、少しずつ形状が現れ認識されていく。認識と認知とが混じり始め、それは、時を要しながら、初めての町に適応していく⾃⾝の存在へと繋がっていった。そんな情景を、「時間を伴う⾝体的アプローチによる物事の認知と認識の視覚化」をもとに制作を試みた。それはまるでカメラが⼤きな絵筆となり、瞬刻のタブローを描くかの様だった。
追記
個⼈的に予定していた数々のプロジェクトはCOVID-19により中⽌・延期が求められる時間の中、昨年に予定していた展⽰にあたりセレクトした作品を今⼀度組み替える作業を始めた今年。時間を経て作品と向かい合う事で当初抱いていた想いを改めて確かなものとなっていくと同時に、新たに⾜された⽂脈と出会うことになった。それは新しい⽣活様式、社会形態、⼈間関係に「適応」を求められた現在進⾏形の時代の⽂脈であった。折しも、闇と光の間での視覚による適応という、展⽰作品群の⽂脈とが交わり「現在性」が⽣まれる結果となった。ウイルスもヒトも⽣物として「適応」できたものだけが⽣き残ってきた⽣存競争の歴史、それは真っ暗な海の底から頭上に⾒える陽の光に向かって、突き進んだあの⿂の限界の先にあった想いが創造した未来の歴史かもしれない。
千々岩 孝道
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